■猫と暮らす100のアイデア CAT network
■猫の肥大型心筋症(HCM)
Feline Hypertrophic Cardiomyopathy より 翻訳−Hiroko



3.HCMの診断

HCMを持つ猫は、まったく臨床的な症状を示さないこともあれば、呼吸困難の兆候や、心臓発作、脚の麻痺、さらには突然死といった激しい症状を示すこともあります。
呼吸数のわずかな増加は、症状としては非常に軽いため多くの場合には気づかれません。
HCMの猫の多くは、疾患が進むにつれて、心拍数の増加、心雑音、ギャロップ・リズム(余分な心拍音)といった症状を示します。
しかしながら、疾患が進む前に、このような症状をもってHCMであると診断するべきではありません。

カラードップラーを使った心臓エコー(心臓の超音波検査)(echocardiogram with color flow Doppler imaging)が、最も信頼できるHCMの診断方法です。
心臓エコーでは、心臓の物理的な構造と心臓の機能の双方を確認することができます。
心臓エコーは、針や管を体内に挿入せずに診断できるので、基本的に検査を受ける猫に危険はありません。
心電図やレントゲン検査は、追加的な情報として有益ですが、これらの検査のみで決定的な診断を下すことはできません。
初期のHCMは僧帽筋にしか異常が見られないことが多く、異常をみつけにくいため、HCMの診断やその後の疾患の管理には心臓専門獣医師の診察が必要です。

さらに、心筋肥大がほかの疾患(甲状腺機能亢進症や高血圧)によっておこっているのかどうかを判断するために、その他の検査もおこなわれます。
他の原因がないとわかれば、HCMの診断が確定します。

HCMにかかった兄弟姉妹や親がいる猫は、HCMを持っている危険性が高くなります。
このような猫は、定期的に心臓エコー検査をおこない、状況をモニターすることが薦められます。
猫が純血種で繁殖プログラムに使われる場合には、検査が特に重要になります。
HCMの猫を新たに増やさないために、もし純血種の猫がHCMにかかった場合には、オーナーはすみやかにその猫のブリーダーに知らせるべきです。

HCMの診断は死体解剖(検死)でも可能です。
死後に心臓が収縮することがあるので、左心室壁の厚さのみではなく、心臓の大きさと重量、左心房の外見と大きさなどの要素も考慮して診断をくださなければなりません。
具体的には、左心室の壁が異常に肥大し、心臓が20g以上ある場合に、HCMと診断できます。
また、左心房も拡大しているのが普通です。




4.HCMの治療

残念ながら、現在のところHCMを治す有効な治療法はありません。

他の疾患が原因で心筋が肥大している場合には、根本の原因となる病気を治療することで、心臓の状態がある程度改善することもあります。

心筋が肥大すると、心臓の機能が阻害されます。
心臓発作の危険を減らし、心機能をできるだけ助けるために、薬が処方されることもあります。
場合によっては、心筋の悪化を防ぐ治療がなされることもあります。

どのような治療をおこなうかは、患者の臨床症状、心筋肥大による機能障害の種類と程度によって異なってきます。

  • 心臓の機能障害を軽減する、もしくは失われた機能を補って、心臓発作や血栓の危険性を減らすために、心機能を改善する薬が処方されることもあります。薬の主な目的は、左心室が血液で満たされる機能を改善することです。場合によっては、心拍を遅くする、心筋が弛緩する能力を改善する、またはこの双方を目的にすることもあります。目的が何でどのような薬が処方されるかは、患者の状況によって変わってきます。利用可能な薬の中でどれが有効か、疾患の進行段階によりどの薬がもっとも適切かについて、医師の意見がわかれる場合もあります。
  • 患者が鬱血性心不全を起こしている場合には、利尿剤が処方されることがあります。薬で心臓発作をコントロールできる保証はありませんし、心臓発作はだんだん薬が効かなくなる場合が多くみられます。
  • 血栓ができる危険性がある場合は、血液の凝固をさまたげる薬が処方されることもあります。このような薬は、患者が内出血をおこさないように、きちんとモニターして投薬しなければなりません。また、薬で必ずしも血栓を予防できるとはかぎりません。

心臓発作や脚の麻痺といった重篤な症状がある場合は、すぐに獣医師に見せなければなりません。
まず緊急事態を回避することが先決で、治療方針の検討は症状が落ち着いてからおこなえばよいでしょう。

HCMの治療には、治療に対する患者の反応を見るために、定期的な医師の診察が必要となります。
心電図、心臓エコー、レントゲン検査などが再度おこなわれることもあります。
患者の状態や治療への反応を見て、薬の調節や追加がおこなわれることもあります。

HCMを持つ猫のオーナーは、常に患者の状態の変化に注意を払い、猫が少しでも具合が悪いようならば迷わずに獣医師にみせてください。
獣医師がオーナーに猫の呼吸数の観察方法を指導することもあります。
これは、呼吸数の増加が、鬱血性心不全の前兆となる場合があるからです。
また、猫が呼吸する時に体の横側が(普段よりも)大きく出たり入ったりしないかどうかにも注意してください。
呼吸数は普通でも、息苦しそうに呼吸しているのが心臓発作の前兆であることもあります。
いずれにせよ呼吸に何らかの異常が見られる場合には、獣医師の診察を受けてください。

絶対に、獣医師の指示や監督なしで、猫に薬を与えてはいけません。

ビタミン剤やサプリメントなどがHCMに効くのではないかと考えるオーナーがいらっしゃるかもしれません。
しかし、現在のところ栄養障害がHCMの原因となる証拠はありません。
また、サプリメントによっては、患者の病状に害になったり、処方されている薬と一緒にのんではいけない場合もあります。
猫の栄養について疑問がある場合は、必ず獣医師に相談してください。
不適切なサプリメントを与えると、猫の健康に重大な結果をもたらす可能性もあります。


脚の麻痺はHCMの合併症でおこることがあります。
血栓塞栓症(thromboembolism)の治療について詳しくは、Cardiology NorthwestのHeart Updateをご参照ください。

猫の脚が麻痺しているのに気づいたら、直ちに獣医師のもとに駆けつけてください。
血栓症は激痛を伴う場合が多く、また鬱血性心不全を起こしているか、起こす恐れがある場合もあります。
獣医師は診察の上、患者の症状にあった治療法が何かを告げるはずです。
決してしばらく様子をみたり、自分で治療しようとしたりしないでください。
アスピリンなどの薬は、処方を間違えると猫にとって非常に有毒であり、必ず獣医師の指示のもとで投薬しなければなりません。


5.HCMの予後 | 6.HCMに関する参考文献

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HCMの診断・予後の方法や、治療・医学的アドバイスを与えるのが目的ではありません。
あなたの猫の具合が悪いときは、獣医師の診察を受けてください。

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