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■猫の肥大型心筋症(HCM)
Feline Hypertrophic Cardiomyopathy より−翻訳:Hiroko



1.HCMの定義 <心臓とは>


猫の心臓は、人間の心臓と同じく2つのポンプの働きをしています。
心臓の右側は、循環系統から戻ってきた血液を受け取り、その血液を肺動脈を通じて肺に送りこみます(右のポンプ)。
心臓の左側は、肺で酸素を得た血液を受取り、その血液を大動脈を通じて体全体の循環系統に送りこみます(左のポンプ)。

心臓の図 Aorta:大動脈
Right Atrium:右心房
Tricuspid Valve:三尖弁
Right Ventricle:右心室
Left Atrium:左心房
Mitral Valve:僧帽弁
Left Bentricle:左心室

心臓は左右両方とも、心房と呼ばれる上部の部屋と、心室と呼ばれる血液を送り出す部屋に分かれています。
三尖弁は、右心室が収縮したときに、心室から心房へ血液が逆流するのを防ぐ役目をします。
僧帽弁は、同様に左心室が収縮したときに、心室から心房へ血液が逆流するのを防止します。
心室では乳頭筋が腱索と呼ばれるひもで弁につながっていて、このような構造で心室が収縮しても弁が心房の方向へ押し戻されない仕組みになっています。


<HCMとは>

肥大型心筋症(HCM: hyperthrophic cardiomyopathy)とは、「心臓の(cardio-)」「筋肉の病気(myopathy)」で、左心室の壁となる筋肉が「異常に厚くなる(hyperthrophic)」疾患です。
左心室の壁の筋肉は、他の疾患(例えば高血圧など)の二次的な結果として(他の疾患が原因で)厚くなる(肥大する)こともありますし、心筋の肥大自体が一義的におこることもあります。
左心室の壁の肥大がみられ、それが他の疾患によって二次的に引き起こされたのではない場合に、HCMであると診断されます。
また、乳頭筋も同様に肥大がみられることがあります。
乳頭筋の肥大と収縮期前方移動(SAM: systolic anterior motion)とよばれる僧帽弁の機能異常が、心室壁の肥大に先立っておこることもあれば、同時におこることもあります。
HCMが進行するにつれて、心臓の構造が変形し、その結果として以下のような様々な機能障害が起ります。


<左心室>
  • 左心室の容量が縮小し、その結果として、心室に入る血液の量が減る。
  • 左心室の壁が硬化し、 その結果として、
    • 左心室が十分に弛緩できなくなり、心室に血液を効率よく満たせなくなる。
    • 左心室の弛緩期に心室内の圧力が増加し、このため血液が肺の血管に逆流し、鬱血性心不全(肺水腫や胸膜滲出:血液や組織液が肺や胸膜にしみだす)をひきおこす。
    • 低周波の振動をおこし、心拍音が余分に聞こえる(Gallop rhythmギャロップ・リズム)場合がある。

    左心室の容量が縮小して、心室内の血液の量が減ると、心臓が1回に体全体へ送り出すことのできる血液量が減少します。
    体の重要な臓器へ流れる血液量が十分でないと、これを補うために心拍数が上昇します。
    腎臓への血流が大幅に減少すると、血流量の増加を促進するホルモンが体内に放出されることがあります。この結果、心臓左部への圧力が増加して、鬱血性心不全を招くこともあります。


<左心房>

左心室の筋肉が硬化し心房から十分に血液を受取れなくなるために、左心房内の圧力が上昇し、その結果として心房が拡大することがあります。
左心房が拡大すると、血の流れが遅くなり、その結果として心房内で血栓ができることがあります。
心臓から循環器系に流れ出した血栓は、いずれ血管のどこかに付着し、そこから先の血液の流れを止めてしまいます。
典型的な症状である後脚の麻痺は、後脚へと分かれて降りてくる動脈(大動脈の一つ)に血栓ができた場合におこり、通常サドル血栓(saddle thrombus)と呼ばれます。


<僧帽弁>
  • 左心室内で、僧帽弁が前方に引っ張られ(SAM: systolic anterior motion収縮期前方移動と呼ばれる)、左心室から体全体に血液を送り出す大動脈に血液が流れ出すのを阻害します。
  • 僧帽弁が歪み、血液が左心房に逆流する場合があります。そして、心弛緩期(心拡張期)に弁が開き左心室に血液が流れ込むときに、血液が一気大量に左心室に送り込まれます。このため、振動が起こり、ギャロップ・リズム(余分な心拍音)が生じることがあります。
  • 僧帽弁の位置が変わるため、心臓の収縮期に心雑音がおこることがあります。

2.HCMの原因

HCMの診断は、左心室の心筋肥大が、他の病気の二次症状としておこったのではない場合に確定されます。
HCMに似た左心室の心筋肥大は、高血圧(腎臓病に伴う場合が最も多い)や甲状腺機能亢進症などの疾患によってもおこりますが、このような場合は正式にHCMとは呼べません。

人間のHCMでは、HCMの主要な原因として、いくつかの遺伝子の突然変異が特定されています。
現在までにわかっている遺伝子変異は、常染色体の優性遺伝で、変異性形質発現(variable expression)と不完全浸透(incomplete penetrance)の特徴をもちます。
つまり、両親のうち片方のみが遺伝子欠陥を持っているだけでその子供に50%の確率で遺伝し(優性遺伝)、病状の激しさは人様々で(変異性形質発現)、HCMの遺伝子異常を持っていても発病しない人もいる(不完全浸透)、という性質を持っています。

人間のHCMでは、この遺伝子突然変異が、筋肉の収縮をつかさどるたんぱく質に欠陥をおこすことがわかっています。
その結果として、心臓の筋肉を作っている筋収縮組織(contractile units:筋節)が正常に機能せず、これを補うために心筋は余分に筋節を作り出します。
筋節の数が増えるために、心臓の壁が厚くなるのです。

猫では、HCMは5歳以下の猫に最もよくみられます。
多くのブリードで、家族性の疾患であることが観察されています。
猫のHCMの遺伝子突然変異は、未だに分離されていません。
疾患が家族間でみられること、および両親の片方が疾患をもっているだけで疾患を持つ子供が生まれることから、遺伝性の疾患であることが強く示唆されています。
メインクーンとアメリカンショートヘアーでは、人間の場合と同様に、常染色体の優性遺伝の特徴をもって遺伝することがわかっています。
さらに、疾患の病歴や病理も人間のHCMと同じです。
従って、猫の場合でも、心筋収縮たんぱく質に関係する遺伝子異常であると考えられます。



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