■猫と暮らす100のアイデア CAT network
■Catの猫のお話:本はあてにならない―その3―
Maine Coon International」 Issue 9, Autumn 1996
Cat Moody/Stormwatch Maine Coon より−翻訳:Hiroko



本はあてにならない−その3

本のいうことが正しいのならば、わが家で子猫が生まれるなんてありえないことになります。
誰一人として本のとおりに発情期をむかえる子はいないし、「正しい」体位で交尾する子もいなければ、ちゃんとした時期にピンクアップする子もいないのですから。

必ず週一回は猫たち全員を集めてセミナーを開いていますが、誰も講義に耳をかしてくれません。
本のいうことも、私たちのお説教もすべて無視し、しかも毎月キャッテリーに張り出す「今月のルール」に目もくれません。
それでもどういうわけか、女の子たちはりっぱに妊娠してのけるのです。

たとえば、「妊娠のルール」を見てみましょう。
どれも本からとったもので、もっともなルールだと思えます。


ルール1

「ルール1:雌猫は妊娠期間中ずっと穏やかにすごし、たいてい出産直前の週まで行動に変化がみられない。」

本当にそうならどれだけいいことか。
タイフーンは、交配8分後にさっそく押し入れのシーツをめちゃめちゃにして、お産する場所を準備しはじめました。
タイフーンもモンスーンも、受胎21日目きっかりにお風呂をトイレ代わりに使いはじめます。
本のいうとおりに素直にピンクアップして妊娠を知らせてくれればいいものを、わが家では来客がお手洗いにいって“あらびっくり”となって猫の妊娠がわかるという具合です。
そう、最初に風呂場で猫のうんこを見つけるのは、なぜかいつもお客さんに決まっています。

マリアとサイクロンは、(ちなみにピンクアップするのは発情中だけです)交配4日目で早くも、しかめっつらをし、あれやこれや特別扱いを要求し、しんどいと文句を言い始めるのです。
とくにマリアは、ものすごく太って、まるで小山のような格好で出産までの9週間を過ごします。
マリアが人間だったら、きっと50キロも体重が増えて、足首がむくんで靴がはいらなくなるからスリッパを履いて歩き回り、予定日を2週間も過ぎたところで、エアコンの壊れた部屋で真夏の暑さに耐えていることでしょう。
サイクロンとツナミは、まったく妊婦の自覚がなく、しょっちゅう狭いところに入ろうとして途中でつっかえたり、高いところに飛び乗りそこねて床に落ちてきます。

ところが、みんな食欲だけは旺盛で、今までほとんど何にも食べさせてもらわなかったかのように、一日に何回も食事を要求します。
一度でも出産を経験した女の子たちは、決して子猫部屋での特別待遇(ヒルトンホテルの特別室と呼ばれています)を忘れないようです。
そこで、交配後7秒後には、いそいそ子猫部屋に向かうのです。
子猫部屋では、私が猫と一緒に寝ますし、猫たちはなぜか私の頭の上で寝るのが好きで、一度20キロ分の子猫が顔の上に乗っていたことがありました。
夫のダンは、私よりも“分別がある”(ダンの言葉)もしくは“猫に対する愛情が足りない”(私の言葉)ため、子猫部屋からはなれたところで寝ています。
そこで、子猫と暮らす数々の楽しみを味わうことができないのです。

つまり、真夜中のピンポン玉追いかけ合戦や、髪のあちこちにつきささったねこじゃらし、布団の下のママの足をつかめゲーム、毛玉に囲まれた朝のめざめといった、最高に楽しい(?)経験です。

とにかく、猫たちの子猫部屋での楽しみといえば、何をおいても缶詰です。
一日に2-3回、運がよければ4回もモンプチ、シーバ、フィリスキーズといった猫缶にありつけるのですから、まるで天国です。
グルメ生活と引きかえならば、妊娠や子育てといったちょっとしためんどうも何のそのというわけです。
正直なところ、家の女の子たちは、猫缶食べ放題のために、毎回よろこんで妊娠するのではないかと思えるぐらいです。

子猫部屋で一番スリルのある経験は、ブリーダー運動神経テストです。
部屋の外にいる猫達はなんとかすきを見て中へ入ろうとするし、子育てにうんざりした母猫や外の世界を探検したい子猫はどうにかして外へ出ようとするため、部屋の出入りの際にはアクロバット並みのすばやい反射神経が要求されます。
オリンピックに足さばきを競う競技があれば、きっと猫のブリーダーが上位入賞まちがいないでしょう。
子猫拾いあげ短距離走、耐久テスト(何匹の子猫が寝巻きをよじ登るのに耐えられるか)、さらに上級者むけには、子猫片足のせ長距離走、頭や背中での子猫さかさづりコンテスト。
さあ、3ヶ月のメインクーンの子猫を1度に何匹もちあげられでしょう!…と、ちょっと話が飛びすぎました。


ルール2

「ルール2:猫の妊娠期間は、おおむね平穏無事にすぎる。」

この標語も猫たちにしっかりと読んできかせましたが、まったく効き目がないようです。
もう最近では、こんなルールはペルシャのようにおつむの回転が遅くて「ルールって何?」という猫むけに書かれているのだと思うようになりました。
家の猫たちは、私たちが本気でルールを守らせようとしているのがわかると、いっせいに背中を向けてパタパタとしっぽをふります。
これは、「まったく、こんなバカげたことにはつきあってられない」というポーズなのです。

猫は礼儀正しいので、面と向かって大笑いするようなことはしません。
そのかわりに、部屋にいる猫全員がいっせいに顔を洗い出すという、もっと高度な「集団の忍び笑い」という奥義を究めているのです。
ほら、猫たちがお互いにめくばせをしながら、笑い声が聞こえないように手で口を隠すしぐさをご存知でしょう。
猫はプライドの高い種族なので、人間のめんつをたてることも知っているのです。

まったく、妊娠が平穏無事にすぎるなんて冗談じゃありません!わが家の女の子達ときたら、このときをねらってせっせといたずらの技をみがくのです。

最初のいたずらは、家の女の子たちお得意の『いたずら警報』というゲームです。
これは、妊娠58日目(59日まで待てればさらにポイントが高い)を狙ってやるのが普通です。
夜中の2時に急に私の胸元に飛び乗ってきて、産気づいたようにうなってみせます。
そうすれば、私があわてて台所のカレンダーに走っていって、63日目がいつかを数えなおすことを知っているからです。
まだ予定日には早すぎるのにと不審に思いつつ部屋にもどってくると、猫たちはみんな顔を洗っている最中で、こちらと目をあわせようとしません。
次の朝になると家中に「ほら、ママがまたひっかかった。」といううわさが飛びかいます。
そうすると、全員がいっせいに顔を洗い、しっぽをパタパタふりだすのです。
そう、みんなでクスクス笑っているのはまちがいありません。

次のいたずらは『やったね』というものです。
このゲームでは、ダンが丸一日ごはんをあげるのを忘れてしまったので、「ああ、もうお腹がすきすぎて、カリカリのところまでいく元気も残ってなくて、死にそう...」というふりをしてみせるのです。
とくにこれが得意なのがマリアで(女の子の中でも一番大きくて悲しそうな目をしているので、悲劇の女王といった表情がうまいのです)、マリアにはハンディキャップが4ポイントあります。

ここで私が、本当に男どもときたら何も満足にまかせられないと憤慨して、もう1つ猫缶をあけてやると猫の勝ちです。
このいたずらには、事前に周到な準備が必要で、すでにごはんを食べたことを知られないように、あらかじめ誰かがゴミ箱から空き缶を拾ってどこかに隠しておかなければなりません。

次のいたずらは、妊娠61日目以降になって、もう私がわざわざカレンダーで日にちを確認しないことがわかっているときを狙ったものです。
いわば最初の『いたずら警報』の上級版といえるもので、これをやってのけるには最低2年間の練習と猫演劇学校の卒業証書が必要です。

やっぱりはじまるのは夜中の2時過ぎです。
私の枕もとにやってきて
「ねえ、ママ、起きてちょうだい。
うう...そろそろカイロを用意した方が...ううう...。
パパも起こしてきた方がいいと思うの。うううう...。」
ここでもし、苦しそうな鳴き声をあげてみせればポイントが2倍、背中をまるめて痛がってみせれば3倍のポイントを獲得できます。
この調子で20分ほどうなりつづけ、その間にダンと私はコーヒーを2杯づつ飲んで目を覚まし、カイロやタオルなど出産に必要なものをそろえます。
これが完了したところで、「ママ、悪いんだけど、私何だか全然力が入らなくて...」とやってみせます。
ここで体力をつけておかなければと、あわてて猫缶をもってきます。
「どうもありがとう。」
パクパクパク。
「あー、おいしかった。あれっ、いやだ私お腹が空いていただけだったみたい。すっかり気分がよくなっちゃった。
じゃあ、もう一度寝るわね。おやすみなさい。」
ダンと私は呆然としてお互いの顔を見あいます。
猫たちは、いっせいにものすごい勢いで顔を洗いはじまめす。
そして、ゲームに勝った女の子は決まって、大きな寝息をたてて、気持ちよさそうにうーんとのびをしてみせるのです。
一方、ダンと私はカフェインの取りすぎで、もう眠れないのです。

最後のゲームは、妊娠61日目から69日目の間で、私が用事のある夜を狙っておこなわれます。
どういうわけか、みんなその日を選んで子供を産むのです。
ある子は、4回続けて私が忙しい夜に出産しました。
18人のお客が夕食にくる晩ならば、出産にもってこいというわけです。
私がワインを一杯飲んで冬眠中の熊みたいに眠くなった晩を選んで、子猫を生む子もいます。
また、必ず休暇中に出産する子もいます。
おかげで、どこにも行くことができなくて家で休暇を過ごすことになるのです。
いったいどうしたら、毎年きっちり感謝祭の63日前に妊娠することができるのか本当に不思議です。
(そこで毎年感謝祭の日には「ダン、まず私がサイクロンを見ているからその間に七面鳥を料理してちょうだい。
じゃがいもをむくときになったら交代しましょう。」 という会話をするはめになります。)
その他の女の子たちは、どういうわけか水曜日の夜を狙い、私が週一回どうしても次の日の朝早く事務所にいかなくてはならない日を選んで出産するのです。

「ふつう猫は安産で、人間の手を借りることはほとんどない。」というポスターを先週新しく張り出しました。
男の子たちは、なるほどそのとおりといった様子でうなずいてくれました。
ところがどっこい、女の子たちはみんな、思わせぶりににっこりと笑って見せると、いっせいにすごい勢いで顔を洗いはじめました。

どうやら、何か新しいいたずらを企んでいるようです。
ここしばらく何がおこるのかとっても心配です。




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